最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)718号 判決 1960年6月14日
大阪市西城区聖天下一丁目五九番地
上告人
大徳有限会社
右代表者清算人
長田光那
同市東区杉山町
被上告人
大阪国税局長 原三郎
右当事者間の法人税審査請求却下等取消請求事件について、大阪高等裁判所が昭和三二年五月六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を破棄する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告会社代表者長田光邦の上告理由(上告状所載一乃六、上告理由書所載第一乃至第五点)について。
論旨は、天災による損失については、繰越欠損を認むべきであつて、青色申告でないためのみで繰越欠損を認めないのは、公平に反する旨主張する。
しかし、法人税法九条一項は、「各事業年度の所得は、各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による。」と規定して、損益は各事業年度を単位として計算することとして居るのであつて、青色申告の承認を受けた場合以外、本件の如く天災によつて生じたからとて、所論繰越欠損を所論損金に算入すべき理由とならない。
而して如何なる種類、程度まで過去の繰越欠損を損金に算入すべきかは、立法政策上の問題であつて、法律解釈について不公平を示為するのは当らない。
つぎに論旨は、原判決が所論二八一、一一一円を昭和二五年の事業年度内に生じた損金であり、同年度の確定申告中既に計上せられたものであつて、昭和二六年の事業年度内に生じた損金でないとしたのは誤りであると主張する。
しかし、原判決挙示の証拠による原審の事実認定は、これを是認し得られる。論旨は、原審の証拠判断、事実認定を独自の見解に立つて非難するに帰する。
その余の論旨は、憲法の条章について示為するところもあるけれども、その実質は、独自の見解に立つて原判決を攻撃するに外ならない。
結局論旨はすべて採用し得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、九八条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克 裁判官 高橋潔)
昭和三二年(オ)第七一八号
上告人 大徳有限会社
右代表清算人 長田光邦
被上告人 大阪国税局長原三郎
A、上告状中の上告理由
一、上告人は昭和二五年九月三日ジエン台風によつて上告人所有の木材及訴外撫養木材店所有の委託木材を流失して翌期(昭和二六年四月一日至同二七年三月三一日)の事業年度において同期の利益金を以つて弁済した。
二、被上告人は法人税法第九条第一項及第五項によつて上告人の翌期弁済は青色申告者でないから翌期繰越損金の弁済を否認したのであります。
三、原審判決に「租税の負担は税法の下において公平でなければならず」とあるが天災において同一被災で同一損害を受けた損金を被上告人は認めこれに対し青色申告者は五カ年間繰越損金を認め白色申告者は其の年限りと言うことは何が故に公平と言われるか甚だ以つて解釈に苦しむものであります天災において損害を受け其の損害を認めた以上青白色の別なく取扱うのが税の公平である。
四、原判決文に「そして原告が弐八壱、壱壱壱の繰越損金と主張するものは昭和二四年四月一日から昭和二五年三月三一日までの前々事業年度の欠損四八二、八九一円の昭和二五年四月一日から昭和二六年三月三一日までの前事業年度における同法第九条四項(昭和二五年法律七二号による改正前のもの)の規定による控除残額であつてこれと、委託販売契約とは、何等関係はないものである」と言うが昭和二四年四月一日より昭和二五年三月三一日までの損金は七弐〇四七円〇七銭となり其の中間に於て弐〇参七八円の納税をしておる然るに被上告人は昭和二五年四月一日より昭和二六年三月三一日までの前事業年度に何等関係ないとは全く出鱈目である。
五、原判決文に「たとへその損金が天災に基因するものがあつても其の取扱いを異にすべきものとする趣旨は法人税法の規定全体からも、とうていこれを認めることはできない」と言うが此処に天災で被上告人の損金を認め(其の損金とは借入金又は買掛金等)負債が次期に繰越され次期に於て其の利益を以つて前年度の負債を弁済したもので被上告人がそれに対し課税したら徴税出来る道理がない。事実論から言つて徴税の出来ない税法はもうけていない。即ち立法、趣旨に添わないのである。仮りにかかる無法は課税により徴税されるならば該債権者は何カ年も回収を見送らねばならないのである。負債を優先的に支払わずして営業持続は出来ないのである。現に上告人の如く解散の止むなき状態に至るのである。かかる無法は被上告人の協議官も認めて裁判により是正せよと説明している。
六、判決文原木及び商品七〇〇、二二五円と言うが被上告人及び証人福永潔の証言の通り修正申告をしているも尚此の判決理由に何等其の記載がない。
以上の理由により原判決全部に対して不服であります。
○昭和三二年(オ)第七一八号
上告人 大徳有限会社
被上告人 大阪国税局長
B、上告会社代表者長田光邦の上告理由
第一点 大阪地方裁判所第二民事部事件記録に記載ある昭和三〇年一二月二二日原告(上告人)、被告(被上告人)の弁論に原告の申立に曰く、天災の被害極度は人類消滅に至るので税法の予想せざるは当然である。原告はジエン台風で住宅倉庫商品の悉くを流失した事を被告は認むるや否やを問う。判事更に被告に問う、原告のジエン台風による被害を認むるやと。被告答えて曰く、認めます。
昭和三〇年一二月二二日
裁判官 仲江利政<印>
裁判所書記官補 久住実<印>
右該事件記録に記載してあります。
第二点 上告人のジエン台風による被害は昭和二五年九月一九日附の大正区長前田宗一の証明書が甲第六号証として提出してあります。大正区長は被害地の区長であります。
第三点 上告人は前記ジエン台風の損失を其当期に支払う能力を失い其損金は漸くその翌期に繰越して支払計算を遂げた事は許す可からざる行為なりとて上告人にその取消を迫り本件の訴訟となつたのであります。
第四点 上告人の主張する処は天災は法の予想し得ざるものであり法人税法にも天災の計算に対する制度はその明文無く憲法第三〇条には国民は法律の定めるところにより納税の義務を負うとあり法律の定め無きものは納税の要も無く義務の要もないのである。
第五点 上告人は被上告人に対し本件の終りに際し平穏に請願致します。国民は法の定むるところに納税の義務もあれば同時に憲法第三章に定むる国民の権利もあります。
最大の尊重を希望致します。
以上